飛鳥を訪れたことがある人なら分って戴けると思いますが、ここは町ではなくて、里といった方がしっくりくると思います。高層建築などひとつもなく、そこにあるのは古い寺社と古墳、そして広大な田畑と、川と。それから多少の民家。これくらいです。
そういう飛鳥を歩いていると、やはり楽しい。高校時代、足掛け2日で80kmほどを歩くという酔狂な行事の運営に関わったことがあって、その下見のために奈良の田舎を何度も歩きました。その記念すべき第一回目の散歩が、ちょうど真夏の飛鳥でした。眼前に広がるのは青々とした広大な田んぼ。ちょっと向こうには甘樫丘(あまかしのおか)。全然道を知らず、ひとりで歩くのは不安でもありましたが、こんなところもいいなあ、と思ったことを覚えています。そのせいか、高校を卒業した今でも、たまに飛鳥に行きたくなります。写真を撮りに、というよりは、たんに歩きたい、という理由で。
飛鳥の、今となっては貴重な何もない風景は、ただ自然とそうなって残っているのではありません。通称「明日香法」、正式には「明日香村における歴史的風土の保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法」という法律によって保護されてきたものです。このおかげで宅地化、都市化は制限されました。そして法律の名称ともなっている歴史的風土の保存と、その上での住民のための生活環境の整備が行われました。
今となってはひたすらにのどかな飛鳥も、1400年ほど前は都でした。ちょっと想像できないですけど、事実です。
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