Ella and Louis (Ella Fitzgerald & Louis Armstrong)

Ella and Louis

今回は初めての「ジャズ・ヴォーカル」です。一般的に言って、ジャズはインストゥルメンタルの方が重んじられますが、私はヴォーカルも好きです。

ジャズというと、「難しい」と思う人がいるようですが、そんなことは全然ありません。もしくは、インストゥルメント・ジャズを聴いてみて「これは理解できない」と思った人もいるかも知れません。そういう向きには、ジャズ・ヴォーカルをお勧めします。

ジャズ・ヴォーカルというと、フランク・シナトラだとか、ナット・キング・コールなどが有名ですが、ここではもっと「ジャズっぽい」ヴォーカルを紹介します。そしてそれは、私が一番よく聴くヴォーカル・アルバムでもあります。

エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングは、このアルバムが録音された1956年の時点では「大ベテラン」もいいところです。そのため、完全にリラックスして、ふたりとも歌うことを心から楽しんでいるように感じます。だから当然、聴いているこちらも楽しい、というわけです。ちなみに、ルイは基本的にはトランペッターなので、このアルバムで聴かれるトランペットの音は、全て彼のものです。


歌われる曲の多くは映画やミュージカルからのもので、当時のアメリカにおけるポピュラー・ソングです。その歌詞とメロディはそのままに、フェイクしたり、スキャットを入れたり、アド・リヴしたりしながら完全にジャズにしてしまうふたりの感覚には感服します。その上、すごく楽しくて分かりやすい。ジャズ・ヴォーカルというのはその曲自体を楽しむという面ももちろんあるのですが、歌い手による曲の解釈を楽しむ、という面もあります。すると、彼らのうまさ、リラックスした雰囲気が分かると思いますし、もしかしたら、ジャズの楽しみが分かるかも知れません。

というのは、それは即ち、ジャズの楽しみ方だからです。曲はケーキで言うところのスポンジの部分で、それがまずいとケーキ自体がダメになりますが、それだけがおいしければいいわけではありません。一番大切なのはクリーム、チョコレートやフルーツなのです。クリーム、チョコレートやフルーツ、それが即ち演奏者のプレイですね。


私がこのアルバムを推す理由は、やはりその楽しさゆえです。ビル・エヴァンスのアルバム紹介のところで、「このCDで、ジャズのよさをはじめて理解できた」と書きましたが、それは感動したという意味で、楽しんだというのとは少し違います。だから、このアルバムでジャズの楽しさを知った、ということができると思います。いや、楽しさ、というよりも、気持ちよさ、でしょうか。

このアルバムを少し大きめの音でかけてみて下さい。座り心地のいいソファなどがあれば最高です。そして、耳を傾けてみてください。気になることはちょっと横に置いて。50数分後には、たぶんちょっとだけ気分がよくなっていると思います。是非、お試しを。