エンスー通信 シィクなもの

私はシィクなものが好きです。そういうものだけを所有したいと心から思ってます。


まず「シィク」の語義から考えます。「シィク」では載っていませんから「シック」で引くと、「あか抜けていて、しゃれたさま。いきなさま」(集英社 国語辞典)とあります。私としては「粋」という方を取りたいですね。こちらの方がよく分かる。「粋」というのも調べてみますと「1.気性や身なりなどが洗練されていて、色気があること」(同)とあります。この集英社の辞典だけでは説明が不充分なので、旺文社の国語辞典も調べてみましょう。そうすると「洗練されていて色気があり、さっぱりしているさま」とあり、参考として「江戸後期に町人が理想とした生活理念で、洗練された色気と生気を内につつんだ、繊細で淡白な美をいう」とあります。私はこの説明をシィクの日本的語義として採用したいと思います。「色気と生気」を内包した「繊細で淡白な美」というわけですね。


それにしても江戸時代というのは本当に円熟した大衆文化を持っていたんだなぁと思います。町人の理想の生活理念がシィクというのは驚愕に値すると思いませんか。

何がすごいと言って、「色気と生気」というのが、実生活との密着度を表していますが、それと「繊細で淡白な美」とが共存している点です。だいたい、生活というのは生気には溢れています(最近は生気すらないという話もありますね)が、美とは程遠いもののように我々は感じます。しかし、「粋」というのは、生活の中に自然に美を取り入れてしまう。「江戸時代はよかった」と言うつもりは毛頭ないですし、現代と江戸時代を比較するのは無意味ですが、少なくとも、現代と江戸時代との断絶は、日本人の美意識に多大な影響を与えたことだけは事実だと思います。生活の中にも美があるなんて、私の想像力の域を越えてしまっています。「美」は非日常的な芸術の専売特許みたいに思ってますでしょ?


ですから、シィクなものというのは、「使いやすく、壊れにくく、かつデザインがよくて、装飾性を排した実用的なツール」ということになるでしょう。5つの項目のうち、前2者が生活と結びついた部分、そして後3者が美の部分です。こういうものが実際にあるか? あるでしょう。あるドイツのメイカーの道具などには、こういうものがあります。爪切りなのに美しい。そういうものですね。