On The Street Corner(山下達郎)

On The Street Corner

山下達郎のこのシリーズは、山下達郎の声(+多少の楽器など)で作られた「ア・カペラ」アルバムです。スタイルとしては1950年代中ごろから60年代初期にかけて、アメリカで流行った「ドゥー・ワップ」を土台にしている、という旨のことがライナー・ノーツに書かれています。そして、当時のニューヨークのハーレムでは、ア・カペラのヴォーカル・グループが路上で歌っていたそうです。そのようなグループのことを"Street Corner Symphony"と呼んだらしく、そのあたりから、アルバム・タイトルが付けられています。レパートリーもその時代のもので、当時のヒット・ソングやスタンダード・ナンバーが多いようです。


実はこのシリーズ、最近の私の愛聴盤なのです。親しみやすいメロディーと、美しい声のハーモニー、少し知識があれば理解できる(また、訳詞も載っていますし)完成度の高い英語詞、そしてもちろん、山下達郎の独特の声と歌唱力。そのあたりが作用して、聴いていて気持ちいいですし、気付くと口ずさんだりしてしまいます。何か音楽が欲しいな、と思うとついつい手が伸びてしまう、という感じアルバムなわけです。そして、3枚とも完成度が高い。

いくら好きなアーティストのアルバムでも、あまり好きじゃない曲というのは必ずありますが、このシリーズに関しては、「まぁ好き」から、「すごく好き」というレヴェルしかありません。また、私にとっては、このシリーズで初めて知った曲がほとんどですが、聴いていると「世の中にはいろいろといい曲があるんだな」と思います。

山下達郎本人による、ちょっとマニアックな曲目解説もあって、それをもとに気に入った曲を追いかけていろいろな人のヴァージョンを集めるのも楽しそうです。


話は前後しますが、何ゆえに山下達郎は「ドゥー・ワップ」を土台にしたアルバムを作るのか。それはすごく簡単なことで、彼がもっとも好きな音楽のジャンルが「ドゥー・ワップ」だから。少し引用しますと「(前略)どのような技術的に優れたコーラスよりも、(*ドゥー・ワップの:イケガワ追記)この3パートの単純なハーモニーには、根源的な響きがあるように思えてならなかったのです。(後略)」ということになります。私は今までこのジャンルに関わる機会がなくて、彼のアルバムで知ったわけですが、単純さゆえの深さ、みたいなものは分かる気がします。経験的に。


山下達郎の音楽のルーツはここにあるように感じます。メロディーだとか、歌う時のくずし方だとか、オリジナル・アルバムを聴いていると、気付くことがいくつかあります。私はジャズもこの時代のものをメインに聴いていますから、私もこの時代の音楽が好きなのかも知れません。